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【企業インタビューvol.8】助け合い、想いでつながる組織論
内容
スタジアムの歓声の裏側で、組織はどうあるべきか。日本初の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」に所属する「アルビレックス新潟レディース」の運営会社、株式会社新潟レディースフットボールクラブは、今、静かながらも確かな「組織改革」の最中にあります。 彼らがどのように「働きやすさ」と「プロフェッショナリズム」を両立させているのか。社長と、現場で奮闘する子育て社員の対話から、そのリアルに迫ります。
プロフィール
株式会社新潟レディースフットボールクラブ(本社:新潟県北蒲原郡聖籠町)
2002年にアルビレックス新潟の女子部門として誕生。2019年に独立・分社化し、現在は日本初の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」に参入。新潟県と新潟市、聖籠町、新発田市)をホームタウンとし、県内全域で地域に根差したクラブ活動を行う。WEリーグ(Women Empowerment League)の文字通り「女性活躍」のシンボルとして、ピッチ内外で新潟の活力を生み出している。山本 英明(やまもと ひであき)さん
代表取締役社長。総合商社、コンサルティング会社を経て2004年からアルビレックス新潟で営業事業の一翼を担い、男子チームの事業拡大と同時にチーム結成当初から新潟の女子サッカー界を見守り続ける。2019年の法人化以降、トップチームの強化のみならず、フロントスタッフを含めた組織全体の基盤づくりに奔走。ベンチャーマインドを持ち、柔軟な組織運営を指揮する。堀井 亜登夢(ほりい あとむ)さん
事業本部 運営・事業担当。試合運営やイベント企画などを担当。二児の父であり、妻と協力しながら、子育てと仕事の両立に挑んでいる。クラブ運営会社の「現在地」
昨今、多くの企業が「働きやすい職場づくり」をテーマに、男性の育休取得や時短勤務制度の拡充に取り組んでいます。そんな中で、株式会社新潟レディースフットボールクラブのスタンスは、それらとは必ずしも同じではありません。
「いわゆる大企業がやっているような、ベビーシッター代を会社が負担するとか、立派な制度はうちにはありません。ないというか、正直なところ、そこまでの体力はまだない、というのがベンチャーである我々の現在地です」
山本社長は包み隠さず現状を語ります。しかし、制度がないことは「支援がない」ことと同義ではありません。その象徴とも言えるのが、運営担当の堀井さんです。ホテル業界からスポーツ業界へ、子育て真っ最中で同社に転職を果たしました。しかし、土日も稼働し、遠征も多いスポーツクラブの仕事。共働きの家庭で、どのように両立しているのでしょうか。
「すみません」から「ありがとう」へ
「以前勤めていた職場では、子どものことで休むときは『本当に申し訳ない』と肩身の狭い思いをしていました。でもここは違ったんです」と、堀井さんは入社当初の驚きを振り返ります。
子どもの急な発熱、インフルエンザ、子育てにはトラブルがつきものです。堀井さん自身、看病のために2週間近く出社できない時期もありました。しかし、山本社長や周囲のスタッフは「仕事はいいから、家族を優先して」と背中を押しました。

「社長も同僚も、当たり前のように『行ってあげて』と言ってくれる。最初は『すみません』と謝ってばかりでしたが、今は『ありがとうございます、その分頑張ります』という気持ちに変わりました」
制度で守られている安心感ではなく、"人"に支えられている実感。それが、堀井さんのモチベーションの源泉になっています。
「行けない」自分を責めないチームワーク
運営担当という仕事柄、本来であればチームの遠征(アウェイ戦)や合宿に帯同しなければなりません。しかし、小さなお子さんを抱える堀井さんにとって、長期間家を空けることは困難です。
「運営担当としてアウェイに帯同する必要があるのに、自分だけ行けない。正直、申し訳なさは常にあります。でも、同僚が『私が代わりに行くから大丈夫だよ』と快く送り出してくれるんです」と堀井さん。
山本社長もまた、そんな現場の連携を温かく見守っています。「スタッフのためにやってあげたいことはさまざまあるけれど、今の我々には難しいことも多い。でも、だからこそ会社として『家族を大事にしてほしい』というメッセージを出し続けることが重要だと思っています」
誰かが休んだら、誰かがカバーする。自分が助けてもらったから、次は自分が誰かを助ける。制度がない分、お互いの信頼関係がないと回らない。だからこそ、強いチームワークが生まれているのです。
「日本初」の制度に込めた覚悟
一方で、クラブとしての譲れない「軸」もあります。それは、日本で初めて導入した、選手・スタッフへの産休・育休制度です。

通常、プロ契約の選手やスタッフは「個人事業主(業務委託契約)」となるため、労働基準法による産休・育休の保護が及びません。しかし、同クラブは他クラブに先駆け、独自のサポート制度を整備しました。
「一般的な会社のような福利厚生は、まだ十分ではないかもしれません。しかし、女性がライフステージが変わっても輝き続けられる環境をつくることは、WEリーグに所属する我々の使命です」
お金のかかる支援策はベンチャーとしての工夫で乗り越えつつ、クラブの理念に関わる部分には、組織として全力でコミットする。そのメリハリこそが、このチームの強さです。
「恩返し」が最強の戦力になる
「一番は、妻と子ども達に助けてもらって仕事ができている、という感謝が大きいです」
堀井さんは、そう実感を込めて語ります。 30歳を機に、「サッカーに関わる仕事がしたい」と未経験で飛び込んだこの世界。決して楽な環境ではありませんが、家族の支え、そして急な欠勤も「全然いいよ」とカバーし合う同僚たちの支えが、彼を奮い立たせています。
「自分が休んでも、仲間がカバーして試合運営が回っていく。周りが『全然いいよ』と言ってくれる職場環境は、サッカークラブとしてはなかなかないんじゃないかと思います。だからこそ、自分ができるときは全力で返したいんです」

山本社長もまた、そんなスタッフたちを誇りに思っています。
「我々は新潟という地域に支えられています。だからこそ、まずは我々自身が、互いを支え合う温かい組織でありたい。男性だから、女性だから、という区別なく、一人の人間として尊重し合う。それが結果として、強いクラブづくりにつながると信じています」
「制度」というハードウェアではなく、「信頼」というソフトウェアで組織を回す株式会社新潟レディースフットボールクラブ。そこには強い心のつながりがありました。 勝利を目指す厳しさと、互いを思いやる優しさ。その両輪で、彼らはこれからも新潟の女性活躍、そして多様な働き方のシンボルとして走り続けます。
●今回取材させていただいた企業
株式会社新潟レディースフットボールクラブ(聖籠町)
https://albirex-niigata-ladies.com/



